東京都内の賃貸物件を契約する際、不動産屋から「紛争防止条例説明書」という書類の説明をされた方がほとんどだと思います。
文字からすると堅苦しそうで難しそうな書類という印象も受けますが、内容自体は至極当然で簡単なものです。
紛争防止条例の内容説明や、退去時のトラブル回避方法などを書いていきます。
・これから都内の物件を契約予定
・賃貸物件の退去を控えている
・今度、所有物件を貸し出す
東京都以外の物件であっても参考になる条例ですので、是非ともお目通し頂けると幸いです。
賃貸住宅紛争防止条例とは?
この条例は東京都が定めたものとなり、賃貸借契約にかかわる紛争を防止する為、過去の判例等から定着した原状回復の考え方等を宅地建物取引業者が説明することを義務付けたものです。
引用:東京都住宅政策本部→https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-0-jyuutaku.htm
俗称として「東京ルール」とも呼ばれたりしています。
要するに、過去の賃貸借物件において、退去時に原状回復費用の負担割合等で揉めることが多かったので、東京都として一般的な考え方のガイドラインを設けた、というものです。
ただ、あくまで条例となり法律ではありません。
一般的な目安となる考え、として参考にしましょう。
紛争防止条例の適用対象
紛争防止条例には、次の3つの適用条件があります。
・東京都内にある居住用の賃貸物件
・平成16年(2004年)10月1日以降の新規賃貸借物件
・宅地建物取引業者が媒介または代理を行う物件
上記から、次のことも挙げられます。
・居住用のみなので、事務所や店舗の契約は該当しない
・平成16年以前の契約は該当しない(ただし、諸々協議による)
・個人間の賃貸借契約には該当しない
あくまで、宅建業者が絡んでいる賃貸物件に限るので注意が必要です。
ちなみに、宅建業者がこの条例の説明を行わないと、知事から勧告等のペナルティが発生します。
(経験上、都内の業者が当たり前のように説明を行っていますが)
紛争防止条例の内容
次に紛争防止条例の内容を説明していきます。
基本的には、どの業者も都が作成したテンプレートを元に説明書を作成していることが多いです。
説明書の主な内容は引用しつつ、各項目の意味を書いていきます。
A-1 退去時における住宅の損耗等の復旧について
まず、「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書(モデル)」を引用すると、内容は次の通りです。
引用元:https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-5-jyuutaku.pdf
A-1 退去時における住宅の損耗等の復旧について
1 費用負担の一般原則について
(1) 経年変化及び通常の使用による住宅の損耗等の復旧については、賃貸人の費用負担で行い、賃借人はその費用を負担しないとされています。
(例)壁に貼ったポスターや絵画の跡、日照などの自然現象によるクロスの変色、テレビ・冷蔵庫等の背面の電気ヤケ
(2) 賃借人の故意・過失や通常の使用方法に反する使用など賃借人の責めに帰すべき事由による住宅の損耗等があれば、賃借人は、その復旧費用を負担するとされています。
(例)飼育ペットによる柱等のキズ、引越作業で生じたひっかきキズ、エアコンなどから水漏れし、その後放置したために生じた壁・床の腐食
2 例外としての特約について
賃貸人と賃借人は、両者の合意により、退去時における住宅の損耗等の復旧について、上記1の一般原則とは異なる特約を定めることができるとされています。
ただし、特約はすべて認められる訳ではなく、内容によっては無効とされることがあります。
要約すると、経年劣化や自然損耗の復旧費用は貸主負担、借主の故意・過失による損耗の復旧費用は借主負担、というものになります。
内容としては至極当然なものですが、この条例ができた経緯を加味すると以前は当たり前ではなかったのでしょう。
また、この考えとは別途で特約を設けることができる、としています。
ただ、双方(貸主・借主)合意の上、という大前提があります。
A-2 当該契約における賃借人の負担内容について ※重要
A-2には主に特約事項の記載があります。
個人的な見解ですが、このA-2に書かれている内容が一番重要だと思っています。
理由として、その他の内容は基本的にテンプレートとなるのですが、A-2は契約ごとに異なり、直接的に借主が費用を負担する項目が書かれているからです。
賃貸契約上、比較的よく見かける特約には次のものが挙げられます。
・退去時のクリーニング費用は借主負担
・ペット飼育における損耗等の復旧費用は借主負担
・喫煙による損耗は借主負担
ここに記載されている項目・内容を確認しておけば、借主が退去時に負担すべき費用を把握することができるかと思います。
ただ、前提としてこの書類はあくまで条例の説明書となり、契約書ではありません。
貸主との基本的な取り決めは契約書を参照した方がいいでしょう。
B-1 住宅の使用及び収益に必要な修繕について
B-1には、主に設備に関する内容が書かれています。
まずはA-1同様に引用し、内容を説明していきます。
引用元:https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-5-jyuutaku.pdf
1 費用負担の一般原則について
(1) 住宅の使用及び収益に必要な修繕については、賃貸人の費用負担で行うとされています。
(例) エアコン(賃貸人所有)・給湯器・風呂釜の経年的な故障、雨漏り、建具の不具合
(2) 入居期間中、賃借人の故意・過失や通常の使用方法に反する使用など賃借人の責めに帰すべき事由により、修繕の必要が生じた場合は、賃借人がその費用を負担するとされています。
(例) 子供が遊んでいて誤って割った窓ガラス、お風呂の空だきによる故障
2 例外としての特約について
上記1の一般原則にかかわらず、賃貸人と賃借人の合意により、入居期間中の小規模な修繕については、賃貸人の修繕義務を免除するとともに、賃借人が自らの費用負担で行うことができる旨の特約を定めることができるとされています。
<参考> 入居中の小規模な修繕としては、電球、蛍光灯、給水・排水栓(パッキン)の取替え等が考えられます。
内容の要約としては、先ほどのA-1同様に、設備機器が経年劣化等で損傷したことによる復旧費用は貸主負担、借主が誤った使用等をしたことによる故障等の復旧費用は借主負担、というものになります。
また、電球交換等の「小規模な修繕」は借主負担、としているので注意が必要です。
B-2 当該契約における賃借人の負担内容について
A-2同様に、B-2にも特約事項が書かれている場合があります。
例えば、次のようなものが見受けられます。
・借主希望(もしくは紛失)によるシリンダーの交換費用は借主負担
・浄水器カートリッジの交換費用は借主負担
・日常損耗品(電球、網戸、障子など)の交換費用は借主負担
内容はA-2とは若干異なり、借主が希望とする場合に借主負担となる費用、といった項目です。
ただ、お金に関する内容になるので、事前に確認しておいた方がいいでしょう。
C 賃借人の入居期間中の、設備等の修繕及び維持管理等に関する連絡先
Cには入居中に何かあった際の問い合わせ先の記載があります。
例えば、戸建てであれば貸主さんの連絡先や仲介業者の連絡先、マンションであればマンションの管理会社や仲介業者(もしくはコールセンター)の連絡先です。
基本的には、設備故障や何かしら不具合等が起こった際の連絡先、となるので困った時に参照しましょう。
特約が有効になる3つの要件
A-2やB-2には特約を記載することがあります。
ただ、その特約が有効となるには、次の3つの要件が必要であるとされています。
①特約の必要性に加え暴利的でないなどの客観的・合理的理由が存在すること
②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
要するに、基本的に暴利的でない内容かつ借主が諸々を認識している必要があるので、何でもかんでも特約として記載をすれば認められるということではありません。
また、クリーニング費用等を記載する際は、負担費用の明確な金額の提示が好ましいです。(例えば、㎡×1,000円や一律30,000円等)
ただ、具体的な金額の記載がないので支払いません、という借主の主張はまかり通らないこともあるので注意しましょう。
代表的な借主負担項目の費用相場
次に、借主負担となり得る項目の費用相場例を挙げていきます。
(各業者によって異なるので参考程度に)
・ハウスクリーニング費用
㎡単価だと900円~1,200円前後、一律価格だと1Rや1Kで30,000円前後といった金額がよく見受けられます。
・クロスの張替費用
基本的に㎡単価が用いられ、1㎡あたり1,000円~1,200円前後がよく見受けられます。
ただ、クロスの種類による単価の違いや、その他処分費等は別途でかかる場合もあります。
・畳の表替え費用
クロス張替同様に種類によって異なりますが、1帖でおおよそ4,000円~9,000円程になるかと思います。
・CFシートの張替費用
CFはクッションフロアの略となり、主に洗面所やトイレ等に用いられる柔らかい床材です。
主に㎡単価となり、1㎡あたり2,000円~4,000円前後がよく見受けられます。
トラブルになった際の3つの対処方法
紛争防止条例はあくまでガイドラインとなるのですが、この条例があってもトラブルになる可能性は0ではありません。
そこで、私の経験をふまえトラブルになった際の対処法を3つご紹介していきます。
・主観ではなく客観的にまずは話し合う。感情的にならない。
・具体的な証拠や資料を用い、見積や請求費用等の妥当性を提示する。
・どうしても話が進まないなら少額訴訟を起こしてみる。
経験上、何かあった時は話し合いが一番です。
その際、自分の意見を主張することも必要ですが、相手の主張も理解するよう努めることが大切になってきます。
自分と相手の主張をふまえ、最終的な落としどころをどうするかを考えながら話しましょう。
話し合う際、何をもって費用を請求しているのか、費用の見積もりの妥当性等も検証しましょう。
過去の判例を調べてもいいと思いますし、相見積もりを取って金額を比較することも効果的です。
また、どうしてもダメなら少額訴訟も一つの手段かもしれません。
少額訴訟とは、60万円以下の金銭の支払請求について争う裁判制度です。
ただ、数万円を払う払わないで訴訟を起こしてまで戦って裁判費用もかけるか、というと何とも言えないと思いますが。
トラブルにならない為の3つの回避策
トラブルになった際の対処法をご紹介しましたが、トラブルにならないことが一番です。
ここでは、トラブルの回避策もご紹介していきます。
・入居当初に室内写真を撮影し、不動産屋や貸主さんへ共有をしておく
・入居中に問題が発生したら放置せず、不動産屋等に報告する
・退去立ち合いを行い、負担項目などの説明をその場で受けておく
入居時に室内の気になる箇所(傷や汚れ等)を撮影し、不動産屋等に共有するといいでしょう。
当初からの根拠を残しておくことで、退去時の話し合いもスムーズにいくと思います。
また、入居中に水漏れや設備の不具合が発生したら、適宜不動産屋等へ報告するべきです。
仮に、問題を放置していたが為に状態が酷くなってしまった場合、借主へ一定額の負担を求められる可能性もありますので。
まとめ
・紛争防止条例はあくまで条例であり、目安のようなもの
・トラブルにならないように当初の写真等を残しておく
・トラブルになったら、まずは話し合う
近年、借主さんに対して不当な請求を行うケースは減ってきているとは思います。
ただ、この条例があるからといって安心せず、自分の身は自分で守れる、ということも忘れずに。
それでは。
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